「私、ダンスに大恋愛しているんです」
そう言って目を輝かせるのは、THE PICNIC APARTMENT・最初の担い手として『CUPS coffee and cupcakes(以下CUPS)』を開いたオーナー西山 麻紀(にしやま まき)さん。珍しく晴れた2016年の七夕、多くの人たちに祝福されて開業の日を迎えました。
ストリートダンスをこよなく愛する麻紀さん。30歳を迎えた今、ダンスに加え、もう1つのステージとして開始したことが、“感動の連鎖を届ける場所を自らつくること”。自らの実現したいことを突き詰めた末に選んだ、彼女のライフスタイルを紹介します。
店内は、どの窓も大きく開放的。以前まで舞台裏にあった石垣をライトアップ、表へ連れ出しました。
CUPS coffee and cupcakesとは
まずは、麻紀さんが開いたCUPSは一体どんな場所なのか?についてお話しましょう。
CUPSの特徴は、その名前の通り、愛らしい手作りのカップケーキ。王道のVanilla Queen(330円)・ザクロとラズベリーの甘酸っぱいフレーバーがクセになるBerry Velvet(350円)・究極のメープルといわれるNOBULを使用したMaple Cinnamon(380円)など、常備6種類。店頭のショーケース内に並び、華やかに来客を迎えています。
“flight”店内限定5種食べ比べ(1080円)が一番人気。6種のテイクアウトボックスを注文する人も多いよう。
カップケーキは全て麻紀さんのオリジナル。キッチンは、パッションピンクが基調の可愛らしいデザイン。
そして、もう1つの特徴は、カップケーキのベストパートナーである、コーヒーです。和歌山にあるコーヒー焙煎所THE ROASTERSに依頼、CUPSオリジナルブレンドのコーヒーを提供しています。一口でパッと苦みの強さを感じつつも後味はさっぱり。カップケーキのほどよい甘さとマッチして、ケーキを食べるフォークが思わず進みます。
アイスコーヒーやラテ、ホットコーヒーなど。その日の気分に合わせて注文を。
コーヒーが苦手な方もご安心を。マンゴージュースやコーラなどもあります。ビールも意外と合うかも。
ダンスに人生を捧げる麻紀さんが、CUPSを開いた理由
さて、ダンスに惚れ込んでいる彼女が、どうしてカップケーキのカフェを開いたのか、気になりませんか?実は、そこには“感動の連鎖を届けたい”という、一貫した想いがありました。ではまず、麻紀さんのダンス人生から振り返っていきましょう。
はじまりは、小学校二年生。テレビでストリートダンスを目にして衝撃を受けたのがきっかけです。15歳の時、バイトで貯めたお金でスクールに通いはじめるものの、求めているものはストリートにあると気付き、町へ飛び込みます。
当時、和歌山のストリートダンサーは男性が多く、年齢も同年代から年上ばかり。縄張り意識も強い中、見知らぬ集団に声を掛けるのは勇気が必要だったといいます。その後、尊敬できる偉大な先輩たちとの出逢いがあり、W.Lockincrewというチームメンバーにも恵まれ、多くの苦悩を仲間と乗り越えて、麻紀さんのダンス人生は加速していきました。
チームリーダーの立ち上げたダンススクールに、W.Lockincrew全員で携わったことも、和歌山城を舞台に2000人が集まるイベントを開催したこともありました。スクールが6周年を迎えた昨年は、8000人を集める動員力あるチームに成長。“仲間たちと一丸となって、想いを込めて本気で伝えれば、感動は伝播する”という実体験を積んでいきました。
なんと!ダンスチームW.Lockincrewで世界大会にも出場!(写真:麻紀さん提供)
W.Lockincrewとは10年以上の付き合い。かけがえのない一生の仲間です。(写真:麻紀さん提供)
アクションとスペース両方で、感動の連鎖を届けたい
実は、麻紀さんの頭の中には、感動の連鎖を届ける手段として、ダンスというアクションに加え、カフェのようなスペースの運営という発想も10年以上前からありました。
20歳の時、将来に向けて腕を磨きたいと、なんと近所の洋菓子屋へ頼み込み。パティシエ経験がないにも関わらず、熱意を買われ採用。ダンスと並行して毎日お菓子作りに励み、睡眠は移動中に立ったままとる、というような熱烈な2年間を過ごしました。
それから25歳になり、カフェの内装とデザインの勉強にと、はじめての海外へ。場所はストリートダンス発祥の地・アメリカ。そこで、現地のカップケーキに出逢い、宝石のような鮮やかな色使いに感動。そして、一口食べた瞬間、過度な甘みと触感の悪さに幻滅…。
「見て感動、食べて感動。感動が連鎖するカップケーキをつくろう!」その出来事がきっかけとなり、カフェのイメージが具体化。30歳を迎えた今、カップケーキが自慢のカフェCUPSを構え、ダンス仲間から町の人々まで訪れたくなる場所を運営しているのです。
毎日丹精込めてカップケーキをつくります。楽しそうに働くスタッフshihoさんと麻紀さん。
同世代の女性から子供まで、ライフスタイルの希望の存在に
ダンスかカップケーキかという“or”の発想ではなく、“and”や、さらには掛け算にも及ぶような、将来プランの立て方はとてもユニークで豊かな発想ですよね。しかも麻紀さん自身、家庭を持つ30代の女性。和歌山に住む同世代の女性にとって、ライフスタイルの幅を広げる1つのモデルケースになるかもしれません。
店の中に飾られた、生徒からの手紙。「DONNA先生」とはダンス教室での麻紀さんのダンスネーム。
今、麻紀さんは週に一度のダンス教室で、小学校から20代前半の生徒たちにダンスを教えています。CUPSには、その生徒たちが訪れることも。彼女の姿は、20代や30代の女性だけでなく、小さな子供たちの希望の星ともなりそうです。
THE PICNICにて新しいライフスタイルを生み出す一人の女性のお話、いかがでしたか?前編では、ライフスタイルに焦点を当てましたが、次回後編ではリノベーションに焦点を当て、この場がどういうプロセスを経て生まれ変わったかを、紹介いたします。
(文章/撮影:前田有佳利)